十年近く前になりますが、わたしの父から郵便小包が送られてきました。
すりへった古い本が入っていて、表紙の裏にはつぎのような献辞が書かれていました。
「この前、とある古本屋でこの本を見つけた。値段はたいした額ではなかったが、中身は非常にすばらしい。わたしは楽しく読んだが、きみもそうであってくれることを願う。父より」
1946年に出版された『人生を最大限に生かす』という本で、いまではわたしの知恵の書や自己啓発書のなかで、宝物のひとつになっています。
「目をさまし、生きなさい!」、「長生きのしかた」、「一日24時間をどう生きるか」といった題の短いエッセイを集めたものなのですが、この十年のあいだに何度も読み返し、そこに書かれている教訓のおかげで大きく成長することができました。
ほんとうに貴重な財産になっています。
最近、雨が降った日にその本を取りだしてページを繰っていたとき、「散歩のしかた」という章が目にとまりました。
著者のアラン・ディヴォーはその章のなかで、どうしたら散歩を最大限に楽しめるかに関する洞察を述べています。
まず、散歩をするときは特定の目的をもってはいけない、と彼は忠告しています。
目的地を決めずに、散歩そのものがもっているうつくしさに身をひたすべきなのです。
つぎに、散歩をするときは心配ごとをもちこんではいけません。
心配ごとは家においてきてください。でないと、散歩が終わるころには、あなたの心に深く根をおろしているでしょう。
そして最後に、十分に認識してください。
景色、音、においに対してしっかり注意をはらえるように、自分をきたえるのです。
木の葉のかたちをじっくりながめてください。
雲の美しさや花の香りに注目しましょう。
アラン・デヴォーはこう結論づけています。
「結局のところ、世の中をながめ、香りを嗅ぎ、質を感じ、ひとりでそのなかにひたる機会をもてば、世の中はそれほど耐えがたいものではないことがわかります。そのように世の中と親しくまじわること-子どものころに感じた魔法のようなしあわせと驚異がよみがえること-こそ、散歩の目的なのです」